書き下し文
殷仲堪の既に荊州(けいしゅう)を為(おさ)むるや。歳の倹なるに値(あ)ひ、
食は常に五盌(わん)のみ。盤外餘肴(よこう)無し。
粒(はんりゅう)盤席の間に脱落すれば、輒(すなわ)ち拾つて以て之を噉(くら)う。
物を率ゐんと欲すと雖(いえど)も、亦(ま)た其の性(せい)の眞素(しんそ)に縁(よ)る。
毎(つね)に子弟に語りて云う、我れ任を方州に受くるを以て、我れに平昔(へいせき)の
時の意を豁(ひろ)くせよ云ふこと勿(なか)れ。今も吾れ之に處して易(か)へず。
貧は士の常なり。焉(なん)ぞ枝に登つて其の本(もと)を捐(す)つるを得んや。
爾曹(じそう)も其れ之を存せよ。
現代語訳
殷仲堪が揚子江の要衝である荊州を治めて知事に就任しても
質素倹約を続け、食は常に小さな五椀のみ。余計な料理、肴などはなかった。
粒を落ちるとすぐさま拾つてこれを食べる。
多数の人間を率いる地方長官として、見せしめのために範をたれたともいえるが
そもそも彼の生活が真実であり、質素、素朴であったことによる。
そして常に彼は子弟に語っていっていた。
自分の任務が大地方の長官になっても、自分に、平素はどんな倹約の生活をして
いたか知らないが、大長官ともなれば、もっと心を広くもったらどうだ。
いまも自分は絶対に変えようとしない。
こせこせと窮屈にするなといわないでくれ、貧は士の之常なり。
出世して見晴らしいいい枝に登ったといっても、其の根本を忘れるなんて
できるものではない。
お前たちもこういう志、行動を忘れずによくよく心しておくことだ。
2025年12月05日
世説新語(殷仲堪の既に荊州為むるや)
posted by 成功の道しるべ at 14:00| 世説新語
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