書き下し文
范巨卿(はんきょけい)荊州(けいしゅう)の刺史(しし)たり。
友人孔仲山(こうちゅうざん)、家貧しくして親を奉じ、姓名を變じて、傭(やと)われて
新野縣(しんやけん)の街卒(がいそつ)と爲(な)り。
巨卿が部を行(めぐ)るに値(あ)う。、縣、仲山を選びて導騎(どうき)と爲(な)す。
巨卿、仲山を見るや、驚いて臂(しじ)を捉(とら)へて曰く、子は孔仲山に非ず耶。
吾(わ)れ昔子と倶(とも)に長裾(ちょうきょ)を曳(ひ)いて、太學に
遊息(ゆうそく)しき。
吾國恩を蒙(こうむ)り、位を牧伯(ぼくはく)に致す。而(しか)るに君、
道を懷(いだ)いて身を隱し、卒伍(そつご)に処(お)る。
亦(また)惜しからずや。仲山曰く、矦贏(こうえい)長く賤業(せんぎょう)を守り、
晨門(しんもん)は志を抱關に肆(ほしいまま)にせり。
貧は士の宜(ぎ)なり。豈(あ)に鄙(いや)しとなさんや。
巨卿、縣に勅(ちょく)して、仲山を代(か)へしむ。
仲山、先傭(せんよう)未だ竟(おわ)らざるを以て肯(あえ)て去らざりき。
范巨卿は荊州の地方長官である。友人の孔仲山は家が貧しいので親に仕え、
姓名を変えて、傭われて新野県の路傍で働く人間となり、巨卿が支配地域を視察して
回るのに出会った。県庁では仲山を選んでその先払いとした。
その時巨卿は仲山を見るや、驚いて肘をとらえていった。
君は孔仲山ではないか。私は昔君とともに長い裾を曳いて大学で一緒に遊学した。
私は国恩によって地方長官にまで出世した。
しかるに君は道を抱いて身を隠し賤しい兵卒の隊列の中におる、なんと勿体ないことだ。
それに対して仲山がいう、戦国の時代の隠士である矦贏は長い間、賤業を守り晨門は
関所の門番をして気ままに暮らしたものだ。
貧乏は志あって世に生きる者のあまんじるところ、よしとするところだ。
どうして卑しいというのだ。
巨卿は県庁に対して仲山を代えさせた。
仲山は先の約束の仕事はまだ終わっていないとあえて去らなかった。
2025年11月27日
世説新語(范巨卿荊州の刺史たり)
posted by 成功の道しるべ at 11:06| 世説新語
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